事業計画は大切だと分かっていても、日々の仕事を優先すると、まとまった時間を取りにくいものです。10月20日、妙高市商工会で事業計画策定セミナーの講師を務めました。
完成した計画書をいきなり書くのではなく、A3一枚に現状と次の行動をメモしていただきました。経営戦略とは、限られた時間やお金を何に使い、何を今はしないかを決めることでもあります。
セミナーで伝えた考え方と、計画づくりを小さく始める方法を紹介します。
この記事のポイント
- 事業計画は、限られた時間とお金の使い道を、自分で決めるために役立ちます。
- 計画書を書く前に、現状・顧客・強み・目標・行動をA3一枚にメモします。
- 分からない数字は後で確かめ、まず来週、自分ができる一歩を一つだけ決めます。
第1章 事業計画は、経営の優先順位を決めるためにある
小規模事業者は、目の前の接客や製造、事務を自分で担っていることが多く、計画づくりを後回しにしがちです。ただ、忙しいときほど、次に何をするかを決める材料が必要です。
事業計画は、将来を正確に予言する書類ではありません。今の状況を見て、自社が優先することを選び、後から確かめるために使います。
目の前の仕事を優先するのには理由があります
今日の売上や納期を守ることは、事業を続けるうえで欠かせません。特に人手や資金に余裕がなければ、「落ち着いたら計画を考えよう」となるのは自然です。
そこで、計画づくりのために何日も空ける必要はありません。まずは「何が一番気になっているか」「それを放っておくと、何に困るか」を書き出します。
春から秋の平日の予約なのか、毎日の売上集計なのか。気になることを一つに絞るだけでも、次に調べることが見えてきます。

自分の考えを整理すると、人にも伝えやすくなります
セミナーでは、計画書をつくる理由を「コミュニケーション」として説明しました。第一の相手は自分自身です。
頭の中で漠然としていた困りごとを文字にすると、何を変えたいのかがはっきりします。そのメモがあれば、従業員や取引先には協力してほしいことを、商工会や金融機関には取り組む理由を伝えやすくなります。
読み手に合わせて説明を加える前に、まず自分が納得できる筋道をつくります。
補助金やデジタルツールは、目的が決まってから選びます
ホームページの改修、POSレジ、AI、補助金。使える手段は増えましたが、導入そのものを目標にすると、費用に見合うかを判断できません。
例えば「平日の宿泊客を増やす」なら、誰に何を伝えるページが足りないのかを確かめます。「売上集計の時間を減らす」なら、どの転記をなくせるかを調べます。
先に変えたいことを決め、必要な手段だけを選ぶ。この順序が、小さな会社の経営戦略では大切です。
第2章 計画書を書く前に、A3一枚にメモする
今回のセミナーでは、①現状、②顧客、③自社の強みや足りないところ、④数値目標、⑤具体的な取組の順に考えました。最初から文章を整える必要はありません。
数字や根拠が分からないところには「後で確認」と書き、まずは項目同士のつながりを見ます。以下の旅館とネイルサロンは、説明に使った架空の例です。
① 現状は、分かっている事実と推測を分けます
6室の旅館なら、冬のスキー客の宿泊が売上の柱で、春から秋の平日の予約が少ないとします。予約台帳で「5~10月の平日は月平均20組泊」と分かれば、それは事実です。
一方、「ホームページの写真が冬中心なので、春から秋の過ごし方が伝わっていないのでは」は、まだ確かめていない推測です。店主一人のネイルサロンなら、紙の売上記録を集計表に転記し、締めと集計に一日平均30分かかることを記録します。
事実と推測を分けると、次に確認する場所を間違えにくくなります。
②③ 顧客の希望と、自社の良さをつなぎます
旅館が春から秋の平日に迎えたいのは、混雑を避けて温泉でゆっくり過ごしたい夫婦かもしれません。館内の温泉や静かな客室は、その希望に応える強みです。
近くの直売所で地元の旬に触れられることも、宿泊前後の過ごし方として案内できます。自前で料理を始める必要はありません。
ネイルサロンなら、生活に合うデザインを落ち着いて相談したい顧客に、丁寧な聞き取りで応えます。会計の効率化を進めても、この接客の良さは守ります。
顧客の希望は決めつけず、感想や会話から確かめます。

④⑤ 変える数字を一つ決め、取組につなげます
旅館の目標を「翌年5~10月の平日宿泊を月平均20組泊から22組泊へ」と置いたら、既存ホームページに平日の温泉滞在を伝えるページを整備する案が出てきます。夫婦での過ごし方、料金、予約方法まで載せることが必要です。
ネイルサロンは「一日の締め・集計を30分から10分へ」を目標に、タブレットPOSレジで二重入力を減らす案を検討します。費用や月額料金を見積もり、支払う時期と資金も確認します。
取組は数字を変えるために必要か、今の人数で続けられるかを考えます。
第3章 メモを育て、最初の一歩を踏み出す
セミナーでは、まず計画のメモをつくり、事業所に戻って数字や根拠を補い、必要なら商工会へ相談する流れをお伝えしました。完成度を急ぐより、取り組みを決めるために足りない情報を見つけることが大切です。
人手不足や除雪の負担など、自社の実情も計画の出発点になります。一度書いて終わりにはしません。
分かる範囲の数字を、手元に集めます
売上帳や予約台帳があれば、直近の売上や客数を見ます。仕事の負担を減らしたい場合は、どの作業に何分かかるかを数日記録します。
すべてを正確にそろえてから書き始める必要はありません。ただ、参加者からは「事前に調べておくデータを示してほしかった」という声もありました。
次回は、持参すると考えやすい数字を事前に案内したいと思います。資料がない項目は空欄にせず、「いつ、どこで確かめるか」とメモできます。
人手不足や作業の負担も、経営戦略の題材です
売上に困っていなくても、人手不足で今のサービスを続けにくいことがあります。その場合は、まず「誰に、どんな価値を届け続けたいか」を確認します。
そのうえで、接客以外の作業を減らせないか、手順を見直せないかを考えます。例えば毎日の転記を短くできれば、顧客と相談する時間を確保しやすくなります。
目標は「一日何分減らす」など測れる形にし、顧客に届ける良さを保てているかも確かめます。集客と業務改善は、同じ計画の中でつながります。
来週できることを、一つだけ決めます
旅館なら、今のホームページを見て、平日の案内に足りない情報を三つ書き出す。ネイルサロンなら、締め作業を三営業日測り、何に時間がかかるか記録する。
これなら大きな投資の前に始められます。メモができたら、数字や費用を補い、取り組みの効果を確かめます。
商工会の経営相談員に相談するときも、「何を変えたいか」と「何を調べたか」が一枚にあれば、具体的な話を始めやすくなります。

まとめ 事業計画は、一枚のメモから育てられます
事業計画の目的は、書類を完成させることだけではありません。今の商売と困りごとを見つめ、顧客に届けたい価値を確認し、限られた時間やお金をどこに使うかを決めることです。
まずは現状、顧客、自社の良さ、変えたい数字、具体的な取組を一枚に書いてみてください。分からない数字は後で調べれば大丈夫です。
最後に「来週、誰が何をするか」を一つ決めます。そのメモが、自社の判断にも、商工会との相談にも役立つ計画の土台になります。


