「Instagramをやりたい」は経営戦略なのか? 経営改善を動かす2つの壁

経営戦略 上越妙高 Management

2026年10月16日、新潟県商工会連合会の商工会経営指導員向け研修会で、18名の皆様に30分間お話ししました。テーマは「経営課題と経営者の実行条件から考える デジタル・AI活用」です。SNSやAIを使う前に、会社として何を変えるべきか。そして経営者がどうすれば実行できるか。この2つが、経営戦略を動かす出発点です。新潟県内の事例と研修後の気づきを通して、経営改善を前に進める支援の考え方を紹介します。

本記事のポイント

  • 経営者の「やりたいこと」と、本当に解くべき経営課題を分け、優先順位を決める。
  • 経営戦略は方針を立てるだけでなく、経営者が納得して実行できる条件まで整える。
  • 支援機関と専門家が連携し、経営戦略に沿って事業者が踏み出せる次の一歩をつくる。

第1章 経営戦略の出発点は「要望の奥にある課題」を見つけること

「Instagramを始めたい」「AIを使いたい」「補助金を活用したい」。経営者の具体的な要望は、前向きな行動の入口です。しかし、そのまま施策にすると、時間や費用をかけても経営改善につながらない場合があります。戦略の第一歩は、手段の前に「会社として何を変えるか」を確かめることです。

1-1 「Instagramをやりたい」は、相談の入口

「Instagramを頑張りたい」という声の背景には、新規顧客を増やしたい、閑散期の売上を安定させたい、自社の魅力を伝えたい、といった目的があるかもしれません。

Instagramが悪いわけではありません。課題が新規顧客の不足なのか、価値の伝え方なのかで、打つ手は変わります。

「どんなお客様に来てほしいですか」「なぜ今、それが必要ですか」と対話し、要望の奥を確かめることが大切です。

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1-2 「誰に、どんな価値を届けるか」から優先順位を決める

小規模事業者は、人手も時間も予算も、すべての施策に使うことはできません。だからこそ経営戦略では、誰にどんな価値で選ばれ、何から取り組むかを決めます。

SNS、Webサイト、Googleマップ、AIは、その方針を実現するための手段です。

「使えるものを全部使う」ではなく、「今の経営課題に効くものから選ぶ」。この順番を間違えないことが重要です。

1-3 旅館業の事例:SNSの前に「選ばれる理由」を整理する

新潟県内の旅館から寄せられたのは、Instagramの投稿内容や口コミを増やしたいという相談でした。

しかし、すぐに投稿方法の話には入りませんでした。口コミや宿帳、既存顧客の声を手がかりに、どのような方が訪れ、何に満足しているのかを整理しました。

強み、顧客像、提供する滞在価値を言葉にしてから、InstagramやGoogleなどの役割と優先順位を考えました。

具体的な要望から経営の本質に戻り、再び具体策へ進む「具体→抽象→具体」の支援です。

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第2章 経営戦略を実行につなげる「経営者の実行条件」

経営課題が分かっても、改善策が実行されるとは限りません。新しい取り組みには、忙しさや不安、完成形が見えないことなどの障壁があります。私は、経営者が納得して動き出すために必要な状況を「経営者の実行条件」と呼んでいます。これは公式な政策用語ではなく、現場の支援で使っている私の考え方です。

2-1 「会社が変えるべきこと」と「実行できること」を分ける

例えば、業務の属人化を解消する必要があっても、経営者が新しい仕組みを使う姿を思い描けなければ、導入は進みません。

逆に、経営者の関心が高い施策ばかり選ぶと、利益改善など本当に必要な課題を後回しにしかねません。

会社として必要な方向と、経営者が行動できる進め方。この両方を合わせることで戦略が動きます。

2-2 「見える化」「半歩先」「具体と抽象の往復」

研修では、納得を行動につなぐ方法として3つを紹介しました。

第一に、数字や業務の流れ、試作品などで課題と改善後の姿を見える形にすること。

第二に、支援者が先の展開を考えていても、経営者には今できる「半歩先」を示すこと。

第三に、目の前の要望と、顧客・強み・課題といった経営全体の視点を行き来することです。

最初から完璧な計画を求めるより、小さく試し、対話しながら修正できる進め方が実行につながります。

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2-3 卸売業の事例:AIを「守り」と「攻め」の両方に使う

新潟県内の卸売業では、売上の伸びとともに事務負担が増え、業務が経営者に集中していました。

まず業務を見える化し、入力内容やルールを整理したうえでAIの試作アプリを作成しました。操作を一緒に確かめ、経営者自身がAIに指示できるように進めました。

一括入力による事務作業65%削減に加え、高粗利益商品の粗利益高は前年比155%という成果も研修資料で紹介しました。

さらに、生まれた時間を顧客別の粗利益分析、既存顧客への追加提案、未開拓地域の営業先分析にも活用しました。

効率化という「守り」を、売上・粗利益を伸ばす「攻め」につなげる考え方です。

第3章 支援機関とともに「戦略を動かす一歩」をつくる

2つの事例は、立ち止まっていた場所が異なります。旅館業では、施策の前に経営課題と優先順位の整理が必要でした。卸売業では、課題が見えていてもAIを業務で使うための支援が必要でした。この違いを見極めることが、経営戦略を動かす伴走支援の出発点です。支援機関と専門家の連携にも役立つ視点です。

3-1 経営改善には「2つの壁」がある

第一の壁は、事業者の要望から本当に解くべき経営課題を特定すること。

第二の壁は、経営者が納得し、行動できる条件を整えることです。

前者を飛ばせば、熱心に施策を進めても方向がずれる可能性があります。後者を飛ばせば、良い計画があっても実行に移れません。

両方を行き来しながら、限られた経営資源を何に使うのかを決め、実行と振り返りを重ねます。

それが、小規模事業者に必要な経営戦略の進め方だと考えています。

3-2 研修後の対話から見えた、伝え方の課題

研修後の懇親会では、中堅の経営指導員の方々に「経営者の実行条件」という視点が比較的強く響いた印象がありました。

一方、若手の方々には、その前段階である「要望と経営課題を分ける」考え方を、さらに丁寧に共有する必要があるのかもしれないと感じました。

短い対話だけで経験年数による違いは断定できません。

それでも、支援を考える際には「課題を見つける」と「実行条件を整える」の両方を伝える必要があると、改めて気づかされました。

3-3 「何から始めるか分からない」段階こそ相談してほしい

「やりたいことはあるけれど、優先順位が決まらない」「提案を受けたものの、何から始めればいいか分からない」。

そうした相談は、経営支援の大切な入口です。

商工会・商工会議所・金融機関には、事業者との関係性や地域で積み重ねた理解があります。

そこに専門家の外部視点を合わせ、数字や業務を整理し、選択肢を絞り、小さな行動に落とし込みます。

私も新潟県の事業者や支援機関の皆様と、経営戦略を次の一歩につなげる支援を続けたいと考えています。

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まとめ|経営戦略を実行に変えるには、真の経営課題と経営者の実行条件を合わせて考える

「Instagramをやりたい」「AIを使いたい」という要望は、経営改善に向けた大切な入口です。ただし、手段の前に、誰にどんな価値を届け、会社として何を変えるかを整理します。適切な方針が見えても、経営者が納得し、実行できる条件がなければ改善は進みません。経営戦略は計画を作って終わりではなく、限られた資源を優先課題に振り向け、行動と振り返りを重ねるものです。課題と次の一歩を一緒に整理するところから始めましょう。

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