「自己資本比率は30%以上が望ましい」。
財務の教科書ではよく目にする基準ですが、成長を目指す中小企業の経営判断では、それだけを追いかけても十分ではありません。
設備投資や採用、新規事業に挑戦すれば、借入や総資産が増え、自己資本比率が下がることもあります。
経営者が見るべきなのは財務指標の良し悪しではなく、「5年後にどんな会社をつくりたいのか」という経営戦略と、それを実現できる財務状態です。
本記事のポイント
- 自己資本比率の高さだけでは、企業の成長力や安全性は判断できません
- 中小企業の財務は「実態→金額→比率」の順番で見ることが重要です
- 目標利益はPLだけでなく、将来つくりたいBSから逆算して考えます
第1章 自己資本比率を上げることが経営の目的ではない
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財務指標は会社の状態を把握する便利な道具ですが、数字そのものを目標にすると経営判断を誤ることがあります。
特に事業承継後、これから会社を成長させようとする経営者にとって重要なのは、「良い指標をつくること」ではなく「戦略を実行できる財務をつくること」です。
1-1.自己資本比率30%なら安心、とは限らない
自己資本比率は、 「自己資本÷総資産」 で計算されます。
一般的には、自己資本比率が高い会社ほど財務基盤が安定しているとされます。
もちろん、会社の財務安全性を見る一つの指標として意味があります。
しかし、経営者が意思決定をする際に、自己資本比率だけを見るのは危険です。
例えば、総資産1億円、純資産4,000万円の会社があったとします。
自己資本比率は40%です。
この会社が新しい設備に5,000万円を投資し、その資金を借入で調達した場合、単純化すれば総資産は1億5,000万円になります。
純資産が変わらなければ、自己資本比率は約27%まで下がります。
数字だけを見れば「財務が悪化した」と評価されるかもしれません。
しかし、この設備投資によって生産能力が上がり、毎年利益とキャッシュを生み出せるようになるのであれば、経営戦略としては前進している可能性があります。
1-2.成長すれば、一時的に財務指標が悪化することもある
企業が成長するには投資が必要です。
設備投資だけではありません。
人材採用、社員教育、新店舗、Webマーケティング、DX、新規事業など、成長には先にお金が出ていく場面が多くあります。
その投資をすべて自己資金で賄える企業は多くありません。
そこで金融機関から借入を行えば、当然、負債と総資産は増えます。
結果として自己資本比率が下がることがあります。
つまり、自己資本比率が下がったという事実だけでは、 「経営が悪くなったのか」 「成長のための投資をしたのか」 を判断できません。
経営戦略では、数字が動いた理由まで見る必要があります。
1-3.財務指標ではなく、戦略を実行できるかを見る
極端に言えば、投資をやめ、在庫を減らし、資産を売却し、借入を返済して会社を縮小すれば、自己資本比率を改善できる場合があります。
しかし、自己資本比率が上がったからといって、それだけで会社の競争力が高まったわけではありません。
反対に、借入を増やしてでも将来の成長につながる投資を行うべき場面もあります。
経営者が考えるべきなのは、 「自己資本比率を何%にするか」 ではなく、 「自社の経営戦略を実行するためには、どの程度の財務余力が必要なのか」 という問いです。
財務は経営戦略を評価する通信簿ではなく、経営戦略を実行するための基盤として考える必要があります。
第2章 中小企業の財務は「実態→額→率」で見る
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決算書に書かれている数字が、そのまま会社の実力を表しているとは限りません。
在庫や売掛金、貸付金など、帳簿上は資産でも実際には現金化しにくいものがあります。
だからこそ財務分析を始める前に、まず決算書を経営実態に近づけることが重要です。
2-1.まず「実質BS」をつくる
最初に見るべきなのは、自己資本比率などの財務指標ではありません。
まず、貸借対照表を実態に近づけます。
例えば、 ・長期間売れていない在庫 ・回収可能性の低い売掛金 ・返済の見込みが薄い貸付金 ・実質的な価値が低い資産 などが含まれていないか確認します。
帳簿上1,000万円の在庫があっても、半分しか販売できないのであれば、経営判断では1,000万円の資産として考えるべきではないでしょう。
同様に、何年も回収できていない売掛金も、現預金と同じような資産として扱うことはできません。
まずは、 「実際にこの会社には何が残っているのか」 を把握する。
財務戦略はそこから始まります。
2-2.比率より先に「金額」を見る
実態を把握したら、次は比率ではなく金額を見ます。
例えば、 現預金はいくらあるのか。
売掛金はいくらあるのか。
在庫はいくらあるのか。
借入金はいくらあるのか。
年間返済額はいくらなのか。
純資産はいくらあるのか。
こうした数字です。
従業員20人程度の中小企業であれば、自己資本比率が35%か40%かという違い以上に、 「今、現預金がいくらあるのか」 「毎月いくらお金が出ていくのか」 「来年どれだけ投資するのか」 の方が、経営判断に直結します。
会社が倒れる直接的な原因は、利益率の低下そのものではなく、最終的には資金が尽きることです。
だからこそ、経営者は率より先に額を見る必要があります。

2-3.財務分析は最後に「率」で確認する
自己資本比率や流動比率、ROAなどの財務指標が不要ということではありません。
重要なのは順番です。
まず実態を見る。
次に金額を見る。
その後に比率を見る。
この順番です。
例えば自己資本比率が前年より低下していたとしても、 「新工場への投資によって総資産が増えたため」 なのか、 「赤字によって純資産が減少したため」 なのかでは意味がまったく違います。
数字の背景を理解した上で財務指標を見ることで、初めて経営判断に使える情報になります。
第3章 「5年後のBS」から利益目標を逆算する
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多くの会社では「前年比で売上110%」「営業利益1,000万円」など、PLを起点として経営目標を決めます。
しかし本当に重要なのは、その利益によって会社に何を残したいのかです。
成長する中小企業ほど、5年後に目指すBSから現在の利益目標を逆算する視点が必要です。
3-1.まず「いくら現金が必要か」を決める
経営戦略を財務に落とし込むとき、最初に考えたいのは現預金です。
例えば、 「毎月の固定費はいくらか」 「借入返済はいくらあるか」 「設備投資はいくら予定しているか」 「売上が落ちても何か月経営を続けたいか」 などから必要な現預金額を考えます。
単純に「現預金5,000万円あれば安心」という話ではありません。
自社の固定費、投資計画、返済計画、売上変動などによって必要額は変わります。
重要なのは、経営者自身が、 「うちの会社は最低いくらの現金を持っておくべきか」 を説明できる状態にしておくことです。
3-2.利益剰余金と現金は分けて考える
次に考えるのが純資産、特に利益剰余金です。
毎年利益を積み上げることで利益剰余金は増えていきます。
ただし、ここで注意したいのは、 「利益剰余金=現金」 ではないことです。
利益を出していても、その資金を設備や在庫、売掛金に使えば、現預金は増えません。
したがって、 「利益剰余金をいくらまで増やしたいか」 という目標と、 「現預金をいくら持ちたいか」 という目標は分けて考える必要があります。
その両方を見ながら、借入と投資のバランスを考えていきます。
3-3.PLではなくBSから年間利益を決める
例えば、現在の利益剰余金が3,000万円で、5年後に8,000万円まで増やしたいとします。
単純化すると、5年間で5,000万円積み上げる必要があります。
年間平均では1,000万円です。
すると、 「年間1,000万円程度の当期純利益を継続して残す必要がある」 という目標が見えてきます。
そこから税金を考え、必要な経常利益を計算し、さらに必要な営業利益、粗利益、売上高へと逆算します。
この順番で考えると、 「前年より売上を10%増やす」 という目標ではなく、 「5年後にこういう財務状態の会社にする。
そのために今年これだけ利益を残す」 という経営戦略になります。
特に事業承継した経営者には、 「先代から受け継いだBSを、5年後・10年後にどんなBSへ変えるのか」 という視点を持ってほしいと思います。
売上を伸ばすことも、新しい事業を始めることも大切です。
しかし、本当に強い会社をつくるのであれば、PLだけでなくBSそのものを経営者が設計していく必要があります。

まとめ|財務の目的は「良い数字」ではなく、挑戦できる会社をつくること
自己資本比率30%という基準を守ること自体が経営の目的ではありません。
重要なのは、自社の経営戦略を実行しながら、必要な現預金と純資産を確保できる財務構造をつくることです。
まず決算書を実態に近づけ、次に金額を見て、最後に比率を確認する。
そして5年後に目指すBSから、現在必要な利益と投資を逆算する。
この視点を持つことで、財務は単なる決算書分析ではなく、会社を成長させるための経営戦略になります。



