「期待していた社員が突然辞めた」。
その出来事に心当たりのある経営者は少なくありません。
期待していたからこそ厳しく指導したはずなのに、結果は退職。
しかも同じことが続いているとしたら、それは個人の問題ではなく、経営としての構造的な課題かもしれません。
本記事では、人材育成において多くの経営者が無意識に陥っている落とし穴を整理し、離職を防ぎ、成長する組織をつくるための考え方を解説します。
本記事のポイント
- 期待と厳しさが伝わらない構造が離職へ
- 人は目標の有無で育て方を変える必要あり
- 人材育成は経営戦略から逆算すべきテーマ
「期待していたのに辞めた」は、本当に人材の問題なのでしょうか
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社員の退職が続くと、「人が続かない会社なのか」「最近の若者の問題ではないか」と考えがちです。しかし本当にそうでしょうか。本章では、期待していた社員ほど辞めてしまう背景を、経営者側の視点から冷静に整理していきます。
(1)期待して厳しくした結果、突然の退職通知
期待していた若手社員が、ある日突然退職を申し出てくる。
理由は「一身上の都合」「自分には合わなかった」。
表向きにはそれ以上語られません。
しかし後から、「社長が自分にだけ厳しかった」と周囲に漏らしていたことを耳にします。
経営者としては納得がいかないものです。
むしろ期待していたからこそ厳しく接してきました。
将来、会社を背負って立つ人材になってほしいと本気で考えていたはずです。
それでも現実として人は辞めています。
しかも、ここ数年間で同じような退職が2回以上続いているとしたら、それは個人の資質の問題ではなく、経営としての構造的な問題である可能性が高いと言えます。
(2)「厳しさ=期待」という社長側の思い込み
多くの中小企業経営者が、無意識のうちに持っている前提があります。
それは「期待しているから厳しくしている」「分かる人には分かるはずだ」という考え方です。
しかし、この“期待”は言語化されていないことがほとんどです。
どの役割を期待しているのか、何ができるようになれば合格なのか、いつまでに到達してほしいのか。
これらを明確に伝えないまま、結果だけを求めてしまうケースは少なくありません。
社員側から見れば、
- 「なぜ自分だけが叱られるのか」
- 「何を目指せばよいのか分からないのに評価だけが下がる」
という状態になります。
これは世代の問題ではありません。
コミュニケーションが設計されていないことが原因です。
(3)退職は「人が弱い」のではなく「設計がない」結果です
「最近の若者は打たれ弱い」「Z世代は叱られ慣れていない」
このような言葉で片付けてしまうのは簡単です。
しかし、それでは何も解決しません。
人が定着しない会社には、共通点があります。
- 育成方針が属人的である
- 評価基準が曖昧である
- 経営戦略が社員に共有されていない
つまり、育つ前に辞めてしまう構造ができているのです。
この構造を放置したまま採用を続けても、同じ結果を繰り返すことになります。
ほめる・叱るの前に考えるべき「人のタイプ」
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人材育成を語る際、「ほめるべきか」「叱るべきか」という議論になりがちです。しかし重要なのは、その前提条件です。本章では、人が持つ“目標の有無”という視点から、育成の考え方を整理します。
(1)人は「目標があるかどうか」で接し方が変わります
人材育成において重要なのは、「ほめるか」「叱るか」という二択ではありません。
その人に明確な目標があるかどうかが最も重要です。
目標が明確にある人は、
- 自分がどこを目指しているのか分かっている
- 不足点を指摘されても成長の材料として受け取れる
このタイプの人材には、厳しさが必要です。
目標に対して「何が足りていないのか」を具体的に伝えることが、成長を加速させるからです。
(2)目標がない人に厳しさは逆効果になります
一方で、目標がまだ定まっていない人に同じ接し方をするとどうなるでしょうか。
- 何のために怒られているのか分からない
- ゴールが見えないままダメ出しだけされる
- 「自分は向いていないのではないか」と感じる
結果として、本人の中で静かに心が離れ、ある日突然退職という形になります。
このタイプの人材に必要なのは、
「今やっていることは正しい」
「ここを続けると、こういう成長につながる」
という安心感と方向性です。
まずはほめること。
その上で、小さな改善点を伝える。
そうすることで、少しずつ目標を持てる人材へと育っていきます。
(3)アンマッチが離職を生みます
問題は、厳しさそのものではありません。
人の状態と接し方が合っていないことです。
- 目標がない人に、目標前提の厳しさを与えてしまう
- 目標がある人に、表面的な称賛だけで済ませてしまう
このズレが続くと、離職は避けられません。
「とりあえずほめておけばいい」
「パワハラと言われるのが怖いから何も言わない」
これは優しさではなく、育成の放棄です。
人材育成は経営戦略から逆算すべきです
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人材育成は現場任せ、人事任せになりがちですが、本来は経営戦略そのものです。本章では、会社の方向性と人材育成をどう結びつけるべきかを整理し、組織を成長軌道に乗せる視点を解説します。
(1)経営戦略がなければ人は育ちません
人材育成は人事の問題ではなく、経営戦略そのものです。
- 会社としてどこを目指すのか
- どの市場で戦うのか
- そのために、どのような人材が必要なのか
これが明確でなければ、社員は自分の将来を描くことができません。
たとえば売上が頭打ちになり、全国への販路拡大や展示会出展を考えているのであれば、「今後3年で、どのような役割の人材が必要なのか」を明確にすることが最初の一歩です。
(2)会社の目標と個人のキャリアを重ねます
次に重要なのは、社員と一緒にキャリアプランを描くことです。
- 会社の成長ステップ
- 個人の成長ステップ
この2つをすり合わせます。
「会社はこうなりたい」
「あなたには、その中でこう成長してほしい」
これを言語化し、共有することで、厳しさも指摘も“期待”として伝わるようになります。
(3)成長するのが当たり前の組織へ
組織が機能するためには、3つの要素が必要だとされています。
目的・貢献意欲・コミュニケーションです。
- 目的:会社はどこを目指しているのか
- 貢献意欲:ここで成長できると感じられるか
- コミュニケーション:それが日常的に共有されているか
この3つがそろったとき、人が育ち、辞めず、成長するのが当たり前の組織になります。
人材育成は感情論ではありません。
経営戦略と設計の問題です。
期待と厳しさが伝わる組織をつくるために
社員が辞める理由を世代や個人の問題にしてしまう限り、同じ課題は繰り返されます。
重要なのは、経営戦略を明確にし、会社の目標と個人の成長を重ね、その上で人に合った関わり方を設計することです。
人材育成は感覚や感情で行うものではありません。
構造と設計によって、成長が当たり前の組織はつくられます。
まずは自社の育成の前提条件を見直すことから始めてみてください。



