上越妙高地域でも、いま「所有」より「関係性」が重視される消費行動の変化が進んでいます。
こうした流れの中で注目されているのが、顧客との継続的なつながりを育むサブスクリプションモデル(以下、サブスク)です。
安定した収益に加え、価格競争に巻き込まれにくい関係性を築けるのが特長です。
本記事では、小さな組織でも実践できるサブスクの考え方と導入手順を解説し、上越妙高の宝である“米”農家の取り組みを事例として考察します。
サブスクが注目される背景
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消費行動が「所有」から「関係性」へと移る今、サブスクは小さな農家にも大きなチャンスをもたらします。顧客との継続的なつながりが、安定した収益と信頼を生む新しい販売モデルを解説します。
(1)消費者の購買行動の変化とサブスクの台頭
近年、消費者の購買行動は「モノの所有」から「体験や関係性の共有」へと大きく変化しています。
こうした流れの中で、サブスク型のサービスが急速に広がっています。
従来のように、必要なときに必要な分だけ商品を購入する「都度購入」ではなく、「信頼できる誰かから、定期的に届けてもらう」というスタイルが注目され始めています。
とくに食品分野では、「生産者が見える」「安心して継続的に購入できる」ことが大きな価値となっています。
この流れは、地方の小規模農家にとってもチャンスです。
「1回の大量販売」ではなく「小さな関係性を積み重ねていく」ことで、安定した収益と顧客との信頼を両立する道が見えてきています。
(2)継続的な関係構築が重要視される理由
サブスクの本質は、「定期課金」ではなく「顧客との関係性」にあります。
売って終わりではなく、買ってからが始まり。
この構造は、農業のように“顔の見える”関係性が強みになる業種と非常に相性が良いのです。
たとえば、妙高市で米づくりをしている農家が、SNSやニュースレターで田んぼの四季や農作業の様子を発信したとしましょう。
それを見た都市部の消費者は、自分が毎月受け取る米に込められた想いや手間を知り、次第にその農家への愛着が生まれていきます。
これは、ただの「商品購入」ではなく、「誰から買うか」という関係性そのものに価値が生まれる瞬間です。
こうした関係が築けると、価格競争に巻き込まれにくくなり、長期的な収益安定にもつながります。
(3)サブスク導入で実現できる収益安定化の仕組み
サブスクの大きな利点は、収益が予測しやすくなることです。
農業経営において、収益の不安定さは常に大きな課題です。
気候変動や市場価格に左右され、年間の売上が読めないことも珍しくありません。
例えば、15kgをお米を月額10,000円のお米(玄米のままで割安にされているケースも有)を届けるサブスクを開始し、30名の定期顧客を獲得できたとします。
そうすれば月間売上は300,000円、年間で360万円の安定収入となります。
このように小さな積み重ねが、経営の土台を支える強力な手段となるのです。
定額制との違いとサブスクの本質
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「定額制」と「サブスクリプション」は似て非なるもの。価格設定の違いではなく、顧客との関係性と価値提供の設計こそがカギです。小さな組織が実践できる本質を解説します。
(1) 定額制との違いを理解する:目的と関係性の違い
「サブスク=定額制」と思われがちですが、実際には両者は似て非なるものです。
どちらも「定期的に料金を支払う」点では共通していますが、目的・関係性・提供価値が明確に異なります。
たとえば、新聞購読やジムの月会費などは定額サービスの代表例です。
これは「毎月一定料金で一定のサービスを受けられる」仕組みであり、価格の安定や利便性が主な価値です。
関係性は基本的に一方通行で、提供内容も変化しません。
一方、サブスクリプション方式は、「顧客との継続的な関係構築」や「LTV(顧客生涯価値)の最大化」が目的です。
野菜の定期便(らでぃっしゅぼーや)や味噌の頒布会のように、顧客の行動やニーズに合わせて提供内容が進化していく点が特徴です。
区分 | 定額サービス | サブスクリプション |
---|---|---|
目的 | 価値の安定、利便性 | 組織的関係性、LTV最大化 |
関係性 | 一方通行 | 双方向・パーソナライズ |
提供価値 | 固定的 | 継続的に進化・変化 |
例 | 新聞購読、ジムの月会費 | 野菜の定期便、味噌の頒布会 |
サブスクは、定額制の延長線上にある“進化系”と考えることもできますが、単に価格を月額にするだけでは不十分です。
関係性と価値提供の再設計こそが、サブスクの核です。
(2)サブスクの本質は『顧客との進化する関係』にある
サブスクの本質とは、「顧客との関係が継続し、進化していく」ことにあります。
たとえば農家が、四季に合わせて異なる品種を届けたり、収穫のタイミングで限定商品を加えたりすることで、顧客は毎月の楽しみや発見を感じます。
また、SNSを活用して「今週はこんな作業をしています」と発信することで、顧客は「農家の一員」としての共感や誇りを感じることもあります。
これにより、単なる購入者ではなく「共にブランドを育てる存在」になるのです。
こうした双方向の関係があることで、サービスは常に新鮮さを保ち、解約率も低下します。
(3)成功するサブスクに共通する3つの特徴
成功しているサブスクモデルには、いくつかの共通点があります。
☑関係性の可視化と対話
顧客とのやり取りを大切にし、手紙・SNS・アンケートなどを通じて双方向性を育む。
☑価値の変化と進化
毎回同じ内容ではなく、季節や顧客属性に応じてサービスを進化させる柔軟性を持つ。
☑導入のしやすさ
「お試しプラン」など初回のハードルを下げることで、新規顧客の獲得をしやすくする。
これらはすべて、小さな組織でも取り入れ可能です。
特別なシステムや資本がなくても、「関係性」と「想い」を軸にした仕組みは構築できます。
小さな組織でも実践できる!サブスク導入ステップ
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サブスクは大企業だけのものではありません。小さな組織でも「誰に、何を、どう届けるか」を工夫すれば、継続的な関係と収益の両立が可能になります。その実践ステップを紹介します。
(1)顧客との関係性を可視化する:最初の一歩
まず最初にやるべきは、「誰とどんな関係を築きたいのか」を明確にすることです。
既存顧客の属性や反応を把握するために、アンケートを取ったり、購入履歴や問い合わせの傾向を分析したりして、ターゲット像を浮き彫りにします。
「この人たちに、こんな体験を届けたい」と思える顧客像が定まれば、サービス設計の方向性も見えてきます。
(2)価格設定と価値設計の考え方
価格設定では、「モノの量」だけでなく、「価値の意味」をセットで考えることが重要です。
たとえば毎月のお米便に、「季節の便り」や「おまけの野菜」、「田植え体験への優先招待」などを加えることで、価格以上の価値を感じてもらえます。
ポイントは、「安さで勝負しないこと」。
関係性やストーリーが価格の裏づけとなれば、顧客は価格よりも「誰から買うか」を重視するようになります。
(3)小規模事業者の成功事例:農家の取り組みから学ぶ
とある米農家では、JAへの出荷はわずか1%で、残りの99%を直販で販売する独自の経営モデルを構築しています。
全国にファンを持ち、年間を通じて定期的に購入してくれる顧客との関係性に力を注いでいます。
この農家の方が実践しているのは、単なる「定期購入」ではなく、サブスク的な継続関係のデザインです。
取り組み内容
- 毎月のお米と一緒に、「田んぼの季節だより」や「家族のひとことメッセージ」を同封
- 季節に応じて、米ぬか・乾燥野菜・古代米などを“おまけ”で同封し、変化をつける
- SNSで顧客向けに「今日は雪が積もりました」といった日常の共有
- 年に一度、「田んぼ感謝祭」として顧客を田植え体験に招待し、リアルな接点をつくる
このような取り組みにより、定期顧客は年々増加し、リピート率も非常に高く、「○○さんの米が食べたい」という“指名買い”が主流になっています。
出荷量を求めるのではなく、関係性の質を高めることで、結果として数量と収益の両立を実現しています。
この事例が教えてくれるのは、「小さな農家でも、想いと工夫次第でサブスク型の販売モデルは成立する」ということです。
設備投資や複雑なシステムがなくても、“誰に、どう届けるか”を考え抜けば、事業の柱は自らの手で育てていけるのです。
小さな農家にこそ、サブスクは武器
サブスクはただの定期販売ではなく、「誰から買うか」という関係性が価値になる新しい販売モデルです。
特に妙高のような地域では、顔の見える農業と相性が良く、ファンづくりや安定収益に直結します。
小規模農家でも、SNSや手紙、体験イベントなどを活用すれば、関係性の濃い顧客を育てることができます。
価格競争ではなく、信頼と共感を軸にした販売へ。
サブスクは、上越妙高の宝である農家が自立していく鍵になるはずです。