人口減少や市場縮小に直面する地域企業にこそ、「人」を起点にしたイノベーションが求められています。
多能工化や多様な経験、計画的な人材育成は、大企業だけでなく中小企業でも実践可能な戦略です。
本記事では、視野を広げる人づくりと、差別化につながる実践的ヒントを4つの切り口から紹介します。
本記事のポイント
- 多能工化が創造力と視野を広げる
- 専門を越えた経験が差別化を生む
- 計画的な人材育成で組織が進化する
なぜ今、イノベーションが必要なのか?
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市場が縮小し続ける今、地域企業に求められるのは現状維持ではなく変革です。カギとなるのは「人」。イノベーションを生み出す人材を、戦略的にどう育てるかが未来を左右します。
(1)SWOT分析から見える現実
伝統素材を扱う上越妙高地域のある経営者は「イノベーションを起こしたいが、方法も人もいない」とおっしゃっていました。
背景には以下のような構図があります。
- 強み:長年のブランドと地元固定客に支えられた安定基盤
- 弱み:外部への販路が乏しく、新規開拓のノウハウも不足
- 機会:“和”文化への関心やインバウンド需要の高まり
- 脅威:伝統素材・工芸市場の縮小が加速している現実
現状維持では強みが徐々に埋没し、機会を逃すばかりか、市場の縮小に飲み込まれかねません。
まさに変化が求められている局面です。
(2)人材をどう育てるか?
イノベーションを起こすのは「人」です。
属人的な経験や勘に頼るのではなく、仕組みとして人材を育てる必要があります。
特に有効なのが、多能工化やジョブローテーションといった制度設計です。
業務の幅を広げ、違う視点や知識を吸収することで、社員は“気づく力”や“考える力”を身につけていきます。
(3)育った人材が実現する未来
製造、販売、企画、顧客対応を横断的に経験した社員は、現場の改善点に気づくだけでなく、新商品や新たな顧客層へのアプローチ方法まで提案できるようになります。
彼らが中心となって変革をリードする企業は、たとえ規模が小さくとも、独自性と持続性を兼ね備えた強い組織へと進化していきます。
視野を広げる人材育成――多能工化の力
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多能工化は単なる効率化ではなく、人材の創造性と柔軟性を高める有効な手段です。現場での多様な経験が気づきを生み、社員の視野を広げ、組織に新たな価値をもたらします。
(1)多能工化は創造性を育てる
多能工化とは、従業員が複数の業務をこなせるように育成する仕組みです。
作業の属人化を防ぐと同時に、組織全体の柔軟性が高まり、生産性だけでなく創造力も強化されます。
異なる業務に触れることで、「なぜこうするのか」「別の方法はないか」と問いを持つ習慣が根付きます。
(2)現場で得る気づきが企業を変える
製造現場での経験を持つ社員が、販売や接客を経験すると、「顧客にとって価値のある製品とは何か」を自然と考えるようになります。
その気づきが商品企画や改善提案へとつながり、現場の中から新しい価値が生まれていきます。
(3)「違い」に触れて創造力が育つ
他者のやり方や他工程の流れを知ることで、社員の視野は大きく広がります。
違いに触れる経験は、既成概念を打破し、新たな視点で物事を捉える感性を育てます。
これは創造的な思考の基盤となり、差別化の源泉にもなります。
一流アスリートに学ぶ、多様な経験の重要性
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異なる分野の経験は、創造性と差別化の源泉です。一流アスリートに見る多様な体験の価値は、ビジネスにおいても同様。専門を超えた経験が、新たな発想と強みを生み出します。
(1)幼少期の多様な体験が土台になる
トップアスリートには、幼少期から多種多様な運動経験を積んでいる人が多くいます。
大谷翔平選手もその一人であり、水泳やバドミントン、サッカーなどさまざまなスポーツを経験した後に野球に打ち込みました。
彼は水泳によって関節の柔軟性や肩の可動域を養い、バドミントンを通じて身体感覚を磨いたとされています。
こうした多様な体験は、単に基礎体力や柔軟性を高めるだけでなく、異なる視点で物事を考える力、すなわち“視野の広さ”にもつながっています。
早期に幅広い経験を重ねることが、将来の専門性を深めるうえで重要な土台となるのです。
(2)経験の掛け算が差別化に
ビジネスの現場でも、複数の分野を経験している人は新しい発想を生み出す力が高いとされています。
例えば、美術や音楽に親しんだ技術者が商品デザインに貢献したり、営業と経理の両方を経験した社員が数字に強い提案を行ったり。
異分野の知識と経験の掛け算こそが、他社との明確な差を生む要素です。
(3)「専門外」が活きる時代へ
現在は「ひとつの専門に特化すれば安泰」という時代ではありません。
むしろ、専門外の知識や経験を取り入れることでこそ、新たな価値が創出される時代です。
伝統的な製品をデジタルアートと融合したり、異業種との協業に挑戦するような発想も、幅広い経験があるからこそ生まれます。
サントリーに学ぶ人材育成と多様性
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縮小市場や若手人材の流出に悩む地域企業にこそ、「人」から始まるイノベーションが必要です。これは決して大企業だけの話ではありません。多能工化やジョブローテーションなど、身近に取り入れられる人材戦略から変革は始まります。
(1)「10年3仕事」で視野を広げる
サントリーは、入社10年以内に3つの職種を経験させる制度を導入しています。
目的は、社員一人ひとりに多様な視点と問題解決能力を身につけさせること。
部門を越えた異動は、異なる文化や考え方を吸収する貴重な機会になります。
(2)若手もシニアも「個」を活かす
サントリーの人材育成方針では、若手と同様にシニア世代にも活躍の機会を提供しています。
年齢に関係なく、社員一人ひとりの「個」の強みを活かすことが、持続可能な組織づくりの核となっています。
(3)「育成会議」で未来を描く
育成は現場任せにせず、複数の上司が集まり「育成会議」を開いて議論する仕組みも特筆に値します。
社員の特性や将来の可能性を組織全体で共有し、最適な成長機会を提供するという考え方は、中小企業でも応用可能です。
引用:日経ビジネス「サントリー、「10年3仕事」を必須に 50歳過ぎても活躍し続ける人材育てる」
イノベーションは“人”から始まる
イノベーションは特別な才能や大きな資本がなくても、人づくりの工夫次第で実現できます。
視野の広い人材を育てることが、地域企業の強みに変わり、持続的な競争力を生み出します。
自社に合った形で、小さくても一歩踏み出すこと。
それこそが、変化を起こす最初の一歩です。