「経営方針は何度も伝えているのに、社員が動かない」
そう感じている経営者は少なくありません。
原材料高騰や賃上げ、環境対応など、経営環境が厳しさを増す中、危機感を強めるほど現場との温度差を感じてしまうケースも多いでしょう。
問題は、社員の意識の低さではありません。
組織が動くために必要な“構造”が整っていないだけです。
本記事では、公式組織の3要素を軸に、なぜ経営方針が伝わらず、組織文化が変わらないのかを整理します。
本記事のポイント
- 経営方針は”言葉”だけでは伝わらない
- 組織文化は個人ではなく構造で決まる
- 決算書を共通言語にすると行動が変わる
経営方針は「伝えている」のに、なぜ組織は動かないのか
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危機感を伝えているのに、なぜ社員は動かないのでしょうか。この章では、朝礼と銀行訪問という日常の場面から、経営者と現場の間に生まれるズレを整理し、経営方針が組織に届かなくなる構造的な原因を見ていきます。
(1)危機感を伝える朝礼と、動かない現場
毎日の朝礼で、社長は繰り返し同じ言葉を口にしています。
「このままでは来年、赤字に転落する。危機感を持ってほしい」。
原材料価格は上がり続け、賃上げも避けられない状況です。
環境対応の流れを見据え、従来の建築用材中心の事業から、二次利用や再資源化を含めた事業構造への転換も考えています。
しかし、従業員の表情は変わりません。
朝礼が終わると、社長は銀行訪問へ向かい、借入のリスケジューリングを頭の片隅で考えています。
一方、現場は昨日と同じやり方で仕事を進めています。
この温度差が、経営者の心に重くのしかかります。
(2)経営方針は「言葉」だけでは伝わりません
社長自身は、明確な経営方針を持っています。
環境対応を軸に、木材を「使い切る」循環型のビジネスへ移行する。
そのために高付加価値の構造材、解体後の再利用、さらにはパルプ原料まで視野に入れています。
しかし、従業員にとっては、その方針が「自分の仕事とどう関係するのか」が見えていません。
経営方針が理念や危機感の言葉だけで語られると、現場では「また社長が何か言っている」と受け止められがちです。
ここに、経営者と組織の最初の断絶が生まれます。
(3)有能性のワナに陥る経営者
これまで数字と根性で会社を守ってきた経営者ほど、「言えば分かるはずだ」と考えやすい傾向があります。
受注生産を中心に、顧客の要望に応えてきた成功体験があるからこそ、自分の判断に自信があります。
しかし、環境は変わりました。
市場構造、原価構造、人材の価値観は、創業期や高度成長期とはまったく違います。
それでも過去のやり方に頼ってしまうのが、有能性のワナです。
経営方針があっても、それを組織が実行できる形に落とし込まなければ、組織文化は変わりません。
組織文化が変わらない本当の理由
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組織文化が変わらないのは、社員に悪意があるからではありません。この章では、「慣性」「既得権益」「暗黙のルール」といった視点から、なぜ組織が現状維持を選び続けるのか、その正体を明らかにします。
(1)組織文化は「悪意」ではなく「慣性」でできています
従業員が動かない理由は、怠慢や反発ではない場合がほとんどです。
多くは、「これまで通用してきたやり方」に慣れているだけです。
高コスト体質であっても、長年それで会社が回ってきました。
原価を細かく意識しなくても、受注は取れ、給料も支払えていました。
この状態が続くと、人は変わる理由を失います。
これが、いわゆる「ゆでがえる」の状態です。
(2)既得権益と暗黙のルール
組織には、明文化されていないルールが存在します。
「ここまでやれば十分」「それ以上はやらなくていい」「変なことを言うと面倒だ」。
こうした空気が、知らず知らずのうちに行動を縛ります。
評価や報酬が曖昧なままでは、挑戦する意味が見えません。
結果として、組織文化は現状維持を選び続けます。
経営者がどれだけ危機を訴えても、文化が変わらなければ行動は変わりません。
(3)組織文化は「設計」しない限り変わりません
組織文化は、自然に良くなるものではありません。
経営方針、評価・教育・権限・報酬といった貢献意欲を生む仕組み、そして日常のコミュニケーション。
この3つが揃って初めて、文化は少しずつ書き換わっていきます。
口酸っぱく言うこと自体が悪いわけではありません。
しかし、それだけに頼る限り、文化は固定化され、経営者の孤独感だけが強まっていきます。
収益性改善を組織の行動につなげるために必要なこと
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収益性を改善しようとしても、掛け声だけでは行動は変わりません。
この章では、決算書を共通言語にする重要性と、公式組織の3要素をどう揃えるべきかを整理し、組織が動き出す条件を考えます。
(1)決算書を共通言語にしなければ収益性は改善しません
収益性を改善したいのであれば、決算書を経営者だけのものにしてはいけません。
組織として行動を変えるためには、決算書を共通言語にする必要があります。
「高コスト体質を改めよう」「利益を意識して仕事をしよう」と伝えても、原価管理が行われていなければ、現場は何を変えればよいのか判断できません。
数字が見えない状態では、行動も変わらないのです。
数字は最も客観的な事実です。
どの商品で利益が出ているのか、どの工程がコストを押し上げているのかを、専門用語を使わずに共有することが重要です。
環境対応や循環型ビジネスへの転換も同様で、「なぜやるのか」を理念だけではなく、「やると数字がどう変わるのか」で伝えなければ、自分事にはなりません。
(2)公式組織の3要素を理解する
組織が動かない原因は、個人のやる気や能力の問題ではありません。
多くの場合、組織として必要な要素が揃っていないことが原因です。
その基本が公式組織の3要素です。
1つ目は経営方針です。
会社として何を目指し、どこで価値を出すのか。この判断軸が曖昧なままでは、現場は動けません。
2つ目は貢献意欲を生む仕組みです。
評価・教育・権限・報酬が連動していなければ、頑張る意味が見えず、現状維持が最も合理的な選択になります。
3つ目はコミュニケーションです。
これは単なる情報共有ではなく、経営方針や数字、判断基準を日常的にすり合わせていくプロセスです。一度伝えて終わりでは機能しません。
(3)3要素が揃ったとき、組織は動き出します
経営方針だけを掲げても、組織は動きません。
制度だけを整えても、方向性がなければ空回りします。
コミュニケーションだけを増やしても、判断基準がなければ疲弊します。
公式組織の3要素は、どれか一つでは機能しません。
この3つが揃ったとき、組織文化は少しずつ変わり、行動が変わり、数字が変わっていきます。
有能性のワナや過去の成功体験、既得権益によって組織は簡単には変わりません。
しかし、個人の意識に頼るのではなく、構造を変えれば行動は変わります。
公式組織の3要素を揃えることは、精神論ではなく、収益性改善に直結する経営の取り組みです。
組織が動かない原因は「人」ではなく「構造」です
社員が動かない原因を、意識や姿勢の問題にしてしまうと、経営者は一人で抱え続けることになります。
しかし実際には、経営方針、貢献意欲を生む仕組み、コミュニケーションという公式組織の3要素が揃っていないだけのケースがほとんどです。
組織文化は一朝一夕には変わりませんが、構造を見直せば行動は必ず変わります。
経営者の想いを現場の行動につなげるために、まずは「伝え方」ではなく「組織の設計」から見直すことが重要です。


