本記事は、主に小売業や飲食業の経営者向けの内容になっています。
売れないとき、つい「値引き」で集客しようとしていませんか?
「値引き」は、使い方次第で利益を生むこともあれば、逆に赤字の原因にもなります。
本記事では心理学の視点と実例を交えながら、「損しないための販促戦略」の考え方を解説します。
本記事のポイント
- 値引きの心理と利益への影響
- 無料提供の心理的効果
- 関係性を築く販促の考え方
なぜ「値引き」は短期的に売れるのか?〜心理とリスクの表裏
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売れないとき、つい「値引き」で解決しようとしていませんか?確かに値引きは一時的な効果がありますが、長期的にはお店の利益を圧迫し、価格の信頼性まで失われかねません。
(1)「安くなったから買う」は人間の自然な反応
人は何かを買うとき、頭の中に「これくらいが普通」という基準価格を持っています。
通常500円のコーヒーが400円だと「安い」「得した」と感じるのはこのためです。
これを内的参照価格と言います。
(2)値引きが当たり前になると、売れなくなる
値引きを続けると、お客さんは次第に「この商品は安く買えるもの」と認識します。
一度その意識(内的参照価格)が定着すると、元の価格では買わなくなり、逆に「高い」とすら感じてしまいます。
これは販売数が伸びたとしても、利益を削るだけの販促になってしまう危険なサイクルです。
(3)損益分岐点を越えられなければ、売るほど損
コーヒー1杯の利益が30円しかない状態で50円引きにすると、売れれば売れるほど赤字になります。
小規模店舗にとって、こうした「見えない損」は命取りです。
値引きの前には、いくら売れば利益が出るのか(損益分岐点)を把握しておく必要があります。
「無料提供」はなぜ価値を高めるのか?〜返報性と体験の心理
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「無料であげたら損じゃないの?」――そう感じる方も多いかもしれません。でも実は、小さな無料提供こそ、お客様の心を動かし、関係性を深めるきっかけになります。本章では心理学と私の実体験を交えながら、なぜ“無料”が価格以上の価値を生み出すのかを紐解いていきます。
(1)体験と感情を生む「無料提供」の力
①無料でもらうと、お返ししたくなる
人は「もらったもの」に対してお返しをしたくなります。
これを返報性の原理と言います。
特に小さなプレゼントであっても、相手の気持ちを感じられると、「何かで返したい」という気持ちが自然と湧いてきます。
②試飲・試食は記憶に残る「体験型販促」
商品をただ並べておくだけではなく、味わってもらう・手にとってもらう。
こうした体験を通じた無料提供は、顧客の記憶に残りやすく、「この店いいな」という感情が生まれます。
味や品質だけでなく、接客や空間そのものがブランドになります。
(2)無料でも損しない設計にする:損益分岐点の視点
①損益分岐点を意識した価格設計
無料で何かを提供すると、確かにコストはかかります。
ただし、これは「販促費」として計画すれば大きな問題にはなりません。
大切なのは、固定費をなるべく抑え、限界利益を大きく取る構造を作ることです。
限界利益(売上−変動費)が高ければ、多少の無料提供やサービス追加をしても利益を確保しやすくなります。
また、無料で配る商品は原価が安く、でも満足感の高いものを選ぶのがコツです。
※「損益分岐点売上高」とは、ざっくり言えば“ここを下回ると利益がマイナスになる売上高”のことです。難しく考えすぎず、「赤字になるかどうかの境目」と理解していただければ大丈夫です。
②価格改善の営業利益への影響
価格の利益への影響は非常に大きく、業種・業態による差はあるものの、平均的な収益構造を持つ企業では、価格を1%改善することで営業利益が11%以上向上することがあります。
これは、価格改善が追加コストを伴わずに売上総利益へ直結するためです。
一方、販売量の増加やコスト削減の効果は限定的であり、変動費削減は限界利益率に依存し、固定費削減の影響も小さい傾向にあります。
以上から、戦略なき値引きは利益を大きく損なうリスクが高く、価格戦略こそが経営改善において効果的な手段の一つといえます。

引用:ハーバード・ビジネス・レビュー「価格を管理し、利益を得る」
上記記事を元に、筆者がグラフ作成
(3)【体験談】プレゼントは「値引き」よりも心に残る:ある精肉店で
以前、上越市のある精肉店で「いい夫婦の日(11月22日)」にお高めの牛肉を購入したときのことです。
お店のおかみさんが「おめでとう!そしたら焼肉のタレは無料にしておくわ」とプレゼントしてくれました。
焼肉のタレは売価200円、原価は50円程度だと思います。
50円分ではありますが、金額の多寡ではなく「ああ、気持ちをもらえた」という嬉しさが強く印象に残りました。
妻に話すと彼女も嬉しそうにしており、その後別の記念日にも、その精肉店で買い物をしました。
たった一言と小さなプレゼントが、関係性とリピートを生むのだと実感しました。
これが50円の値引きであれば、それほど記憶にも残らず、精肉店への愛顧を高まらなかったと思います。
収益を守る販促の戦略思考〜値引きと無料の賢い使い分け
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値引きや無料提供は、ただ「売るため」の手段ではありません。目的や相手を明確にし、関係性づくりの一環として活用することで、販促は「利益を守る」戦略になります。本章では、収益を下げないための値引き・無料の賢い使い分け方と、その考え方を整理します。
(1)値引きは「戦略的」にやれば効果的
値引きは必ずしも悪ではありません。
ただし、「売れないからとりあえず値引く」ではなく、目的を明確にした上で使うことが大前提です。
新商品の導入、期限付きの集客施策など、期間・理由・ゴールを設定しておけば、値引きが利益を削るだけの行為にはなりません。
「戦略的」な値引きには自社の強みを正確に把握する事がスタート地点です。
(2)無料提供も「誰に」「何を」が大事
無料提供が成功するかどうかは、相手を限定し、提供内容に意味を持たせられるかで決まります。
常連さんへの特別サービスや、記念日キャンペーンのように、「選ばれた感じ」「気持ちがこもっている感」を演出できると効果が高まります。
(3)単発ではなく「関係性の構築」を目的に
最終的に重要なのは、「一度買ってもらう」ではなく、「また来てもらえるか」です。
顧客の生涯価値(一人のお客様が長期的にお店にもたらす利益の総額)を高める視点で、値引きや無料提供を「つながりを作るためのツール」として使うことが、持続可能な販促につながります。
顧客との関係性の構築には、昨今話題のサブスクリプション方式も一つの選択肢です。
値引きと無料、損しない販促の心理戦略
値引きや無料提供は、どちらも顧客心理に働きかける強力な販促手段です。
しかし、その効果は一時的なものにとどまるか、長期的な関係性を築けるかで大きく変わります。
重要なのは「誰に、なぜ、それを行うのか」という目的意識と、損益構造を踏まえた設計です。
お客様とのつながりを育むための販促戦略を、今一度見直してみましょう。