中山間地で米づくりを続ける農家は、品質を武器に販路を築き、地域に支えられながら経営を維持しています。
しかし価格競争や後継者不足など課題は山積みです。
本記事では「強みの整理」「価格戦略」「事業承継」という3つの切り口から、中小規模農家が持続可能な未来を描くためのヒントを考えます。
本記事のポイント
- 高品質と地域のつながりが農家の強み
- 顧客選別と付加価値基準の価格設定が重要
- 事業承継と人材育成が未来を左右する
農家経営の現在地と強み
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中山間地の米農家は、品質の高さと地域の協力によって成り立っています。販路の多様化や住民の支えが、農家経営の強固な基盤となっています。
(1)高品質米の安定生産という誇り
ある中山間地の農家は、何十年もの経験と土地の特性を活かし、高品質の米を安定して生産してきました。
地域内外からその品質は認められ、宿泊施設や飲食店への卸しを通じて、観光客の舌を満足させています。
品質を評価され「美味しかった」と直接声をかけてもらえることが、農家にとって大きな励みとなり、次の生産意欲につながっています。
(2)JA依存からの脱却と販路の多様化
多くの農家が価格の安い卸先に依存している一方で、この農家は自ら販路を開拓してきました。
観光地のホテルや飲食店、さらには関東方面の一般消費者との取引により、安定した収益基盤を築いています。
背景には、かつて米不足時代に都市部で販路を模索した経験があり、失敗から学んだ「品質を評価する顧客を選ぶ」という姿勢が息づいています。
(3)地域に支えられる生産体制
農繁期には周辺住民が作業を手伝い、草刈りや労働の協力を得ながら農作業を続けています。
お弁当や飲み物を準備するなど、人と人との助け合いが現場を支えているのです。
農機具も複数所有し、故障すればリースを活用しながら柔軟に対応。
家族経営を軸に、地域の力を借りて成り立っている点が特徴です。
販売・価格戦略の課題と可能性
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価格競争に巻き込まれるのではなく、顧客価値を基準にした価格設定こそが中小農家の生き残りの道です。発信と関係づくりも鍵を握ります。
(1)「安さ」より「価値」を求める顧客を選ぶ
米市場全体では「安ければ良い」と考える層と「品質に価値を見出す」層に二極化が進んでいます。
小規模~中規模農家が生き残るためには、前者ではなく後者を顧客とするべきです。
価格競争に巻き込まれるのではなく、「付加価値を理解してくれる顧客」を選別し、そこに集中することが経営の安定につながります。
(2)市場価格ではなく顧客価値基準での価格設定
「市場価格が高い今こそ、それに合わせるべきだ」とおっしゃる方もいますが、それだけでは不十分な場合もあります。
顧客が支払う理由は「需要と供給」だけではなく、「その農家だから買いたい」という信頼や品質評価にあります。
したがって、中小規模の農家は市場に追随するのではなく、自らのブランド力や顧客理解を反映した価格設定を行うべきです。
(3)発信と双方向コミュニケーションの必要性
品質を理解してくれる顧客を見つけ、関係を深めるためには発信が欠かせません。
SNSなどを活用して生産の裏側や農家の想いを伝えることが、顧客との信頼関係構築につながります。
さらに、感想や要望を受け取る双方向のやり取りを重ねることで、「価格以上の価値」を納得してもらえる基盤が築かれるのです。
事業承継と未来への展望
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後継者不足と高齢化は地域農業全体の課題です。承継意欲を引き出す投資と人材育成の仕組みづくりが、持続可能な農業の未来を左右します。
(1)後継者問題と規模縮小の現実
農家の高齢化は進み、次世代への事業承継は容易ではありません。
ある農家でも、後継予定者は「20町規模は無理だが、半分なら勤めながらできる」と語っています。
規模縮小は避けられないかもしれませんが、持続可能な単位を見極めながら引き継ぐことが重要です。
(2)承継意欲を引き出すための投資
後継者がいるとわかれば、新しい農機具の導入など積極的な投資が可能になります。
つまり承継意欲の有無が経営判断を大きく左右するのです。
「やれる」と思える環境を整え、労働負担を軽減し、やりがいを持てる仕組みをつくることが承継成功のカギになります。
(3)地域農業法人と人材育成の課題
地域の農事組織も高齢化が進み、引き受けられる面積に限界があります。
若手の定着率も低く、人材不足は深刻です。
農家単体の問題にとどまらず、地域全体での人材育成や募集の工夫が求められています。
承継と人材確保は両輪であり、地域農業を守るためには制度や組織的支援の強化が不可欠です。
米農家の未来は「顧客理解」と「承継力」
中山間地の米農家が持続可能であるためには、品質を武器に「安さ」ではなく「価値」を求める顧客とつながることが欠かせません。
その上で、価格を市場任せにせず顧客価値で設定する視点が必要です。
さらに後継者の育成や地域全体の人材確保が未来の土台となります。
経営と承継の両面から戦略を描くことで、地域農業は次の世代へと引き継がれていくのです。