「田んぼを引き受けてほしい」という相談が増える一方で、経営は一向に楽にならない。
そんな違和感を抱えながら、日々の作業に追われていないでしょうか。
地方創生や交流人口という言葉は、観光業や行政の話のように聞こえがちですが、実は農業経営そのものと深く結びついています。
本記事では、「交流」という視点から、なぜ今、農業経営の捉え方を変える必要があるのかを整理していきます。
なお、今回はテーマが大きいため、3回に分けてお伝えいたします。
本記事のポイント
- 田んぼを守る善意が経営を圧迫する構造
- 地方創生の「交流」は農業経営の外部環境
- 交流を機会に変えるかは経営者の判断次第
田んぼを引き受けるたびに、経営は苦しくなることがある
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離農が進む中、田んぼを引き受ける判断は地域農業を守る行為でもあります。しかし、その判断が積み重なることで、経営がじわじわと苦しくなっているケースも少なくありません。まずは、多くの農事法人が直面している現実を整理します。
(1)「もう限界だ」と言われたとき、断れない現実がある
「もう限界だ。悪いが、うちの田んぼを引き受けてくれんか?」
今年に入って、このような相談を受けるのはこれで4件目になります。
相手は、長年この地域で米づくりを続けてきた仲間であり、先輩農家でもあります。
簡単に断れる話ではありません。
結果として、田んぼは増えていきます。
作業量も増えます。
そして、背負う責任も重くなります。
しかし、その一方で利益は増えるとは限りません。
むしろ、赤字構造のまま事業規模だけが大きくなり、体力的にも、精神的にも、経営的にも追い込まれていくケースが少なくありません。
これは個人農家だけの問題ではなく、農事法人組合の組合長ほど直面しやすい構造的な課題です。
(2)善意と使命感だけでは、組織は守り続けられない
地域農業を守りたい。
耕作放棄地を増やしたくない。
次の世代に田んぼを残したい。
こうした想いは、非常に尊いものです。
しかし問題は、その判断が経営的な裏付けを持たないまま積み重なってしまっていることです。
- 原価管理をしていない
- 赤字でも補助金で何とか回している
- ベテラン人材の高齢化が進んでいる
- 利益が出ないまま作業量だけが増えている
この状態は、「頑張っている」というよりも、構造的に疲弊する方向へ進んでいる状態だと言えます。
(3)問題は米づくりではなく、経営の捉え方
ここで整理しておきたいのは、米の品質や栽培技術が原因ではないという点です。
多くの農事法人や中規模農家は、
- 良質で安定した米づくりができる基盤がある
- ベテラン人材とノウハウが蓄積されている
- 地域からの信頼も厚い
といった、明確な強みを持っています。
重要なのは、その強みをどこで、どのように価値へ変えているのかにあります。
地方創生における「交流」は、農業経営と無関係ではない
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地方創生や交流人口という言葉を、農業経営と切り離して考えていないでしょうか。人の流れが変わることは、市場や需要の変化そのものです。この章では、「交流」がなぜ農業経営と無関係ではないのかを解きほぐします。
(1)地方創生は観光業だけの話ではない
地方創生、交流人口、関係人口。
こうした言葉を耳にすると、「観光業や行政の話だ」と感じる農業者の方も多いかもしれません。
しかし、現在の政策や市場の流れを見ていくと、大きく影響を受ける産業の一つが農業であることが分かります。
なぜなら、地方創生の起点は「交流」、つまり人が地域に来ることだからです。
(2)交流人口と関係人口は、まったく性質が異なる
交流人口とは、いわゆる観光客です。
訪れて、消費して、帰っていきます。
一方で、関係人口は次のような特徴を持っています。
- 何度も地域を訪れる
- 地域の人と顔の見える関係になる
- 農産物を継続的に購入する
- 仕事や投資などで関わり続ける
関係人口は、「一度きりの客」ではなく、経営に影響を与える存在になっていきます。
地方創生の本質は、観光客を増やすことではなく、関係人口をどれだけ生み出せるかにあります。
(3)農業はもともと、関係人口と相性の良い産業
農業の特徴を改めて整理してみると、
- 作り手の顔が見える
- 季節ごとの変化がある
- 土地と切り離せない
- 体験価値が高い
といった要素が揃っています。
これらは、都市部の人にとって非常に魅力的な価値です。
それにもかかわらず、多くの農家は「作って出荷する」ところで価値づくりを止めてしまっています。
その結果、交流や関係づくりを他者任せにしてしまっている事もあります。
交流を「経営の機会」に変える視点を持つ
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交流は、待つものなのか、それとも活かすものなのか。妙高高原の再開発をはじめ、地域の外部環境は確実に変化しています。その変化を脅威で終わらせるのか、経営の機会に変えるのか。その分かれ目を考えます。
(1)妙高高原の再開発は、農業にとって大きな転機
妙高高原エリアでは、リゾートの再開発が進んでいますが、これは観光業だけの話ではありません。
- 滞在者が増える
- 食の需要が増加する
- 高付加価値(富裕)層が集まる
こうした変化により、米や農作物の需要は確実に高まっていくと考えられます。
ここで問われるのは、「米を出荷するだけで終わるのか」、それとも交流を通じて関係性まで踏み込むのかという経営判断です。
(2)交流は受動か能動かで、結果が大きく変わる
人が来るのを待つだけの交流は、受動的な交流です。
この場合、価格競争に巻き込まれやすくなります。
一方で、
- 農業体験
- 短期滞在プログラム
- ワーケーション
- お試し移住
こうした取り組みは、能動的に関係人口を生み出す仕組みになります。
重要なのは、実施するかどうかではなく、経営の選択肢として理解しているかどうかです。
(3)田んぼを守るためには、経営の視点を変える必要があります
これからも、田んぼを引き受けてほしいという相談は増えていくでしょう。
離農の流れは簡単には止まりません。
その中で、
- 赤字のまま引き受け続けるのか
- 経営として成り立つ形を設計して引き受けるのか
この選択が、今まさに問われています。
地方創生における「交流」は、農業者にとって避けるべきテーマではありません。
経営資源としてどう活用するかを考える段階に来ているのです。
交流は、農業経営を変えるための選択肢である
これからも、田んぼを引き受けてほしいという相談は増えていくでしょう。
そのたびに善意だけで判断を重ねれば、経営は確実に疲弊していきます。
地方創生における「交流」は、農業者にとって遠い話ではなく、需要・人・お金の流れを変える外部環境の変化です。
その変化をどう捉え、どう経営に組み込むのか。
今、農業経営者には「作る」だけでなく、「選ぶ」視点が求められています。



